Re: 旅立ち - 夏草明

2017/03/25 (Sat) 15:36:55

【ピーターの旅立ち】

「恋人にしてよ」
アパートを飛び出しても、その言葉からは逃げられなかった。
咎めるように雨は降る。あるいは彼女の涙なのかもしれない。
自分がくずだってことはよく分かっている。仕事もせず、かといって家事もせず、夢ばかり追い続けてもう3年になる。つまりは、現実から逃げ続けて3年になるのだ。彼女の稼いだ金で生活し、身の回りのことも全て任せていた。彼女がああ言ったのも当然だ。恋人として扱っていなかったのだから。
真夜中の交差点で立ち止まった。雨音以外は静かだった。ぽつぽつと、夢という名の空想が洗い流されていく。
責任を恐れて逃げるのはもうやめよう。俺は来た方へと足を向けた。早く帰らないと。でなければ彼女が探しに来てしまう。そしてきっと、悪くもないのに謝るだろう。そういうのももう終わりだ。
ああ、だけどもう少し。もう少しだけ、夢の残像を眺めていてもいいだろうか。現実への一歩はどうしようもなく重いんだ。
雨は降り続ける。あるいは消えゆく夢の涙なのかもしれない。