旅立ち - pinoco
2017/03/26 (Sun) 21:14:19
Re: 旅立ち - まきの
2017/03/26 (Sun) 21:15:38
【暗がりの先に待つものは】
ひんやりとした闇の世界の終わり、眩しい光のその先には大きく手を振る人がいる。
愛情に溢れた笑顔のその人に飛んでいって抱きつきたい。いつもならそう思っただろう。でも、今日の僕は違うんだ。
なぜなら僕は知っているから。居心地のいい2人の空間に少しずつ増えていく物。マグカップやスリッパ、お客様用だけど特別な誰かの物。そして、少しずつ空いていくスペース。クローゼットや靴箱が整理されて半分くらいになった。
今朝、僕たちは春の陽気に誘われていつもより長い散歩を楽しんだ。浮かれた彼女の足取りは軽く、思いの外遠くまで来てしまった。たどり着いた先の広場にはいくつかの遊具があり、歩き疲れた彼女をベンチに置いて僕はこの土管に潜り込み聞き耳を立てていた。
彼女は短い電話を済ませて僕に呼びかけた。
「そろそろ帰ろっか」
僕は知っている。彼女と帰る先はもう2人だけの家ではない事を。
さあ、旅立ちだ。これから僕は彼女との優しい満ち足りた時間を取り返すべく戦いの日々に身を投じる。胸を張れ、彼女を守ることが出来るのは僕だけだ。
でも今は、この暗がりをぬけてもう少しだけ2人の時間を楽しもう。
「おいで、タロー。ん?なんだか勇ましい足取りだね。さあ帰ろう!帰ったらサプライズが待ってるよ」