ふぉとのべ!

旅立ち - おやぶん

2017/03/26 (Sun) 21:31:01

旅立ち

Re: 旅立ち - ウサナギ

2017/03/26 (Sun) 21:34:11

少し震えながら見下ろした街。
「高いね」
想像以上の奥行きに、僕は想像通り足をすくませる。一方で彼女は、嬉しそうにガラス窓の向こうの小さな街並みを覗き込んだ。
高所恐怖症の僕と、高い所が大好きな彼女。彼女に恋した僕が悪いのか、はたまた、彼女にその事実を知らせることができない僕が悪いのか。
どちらにせよ、付き合い始めてちょうど一年の今日、僕は彼女とのデートで観覧車に乗り、とあるタワーの展望台まで外が見えるエレベーターで上がり、ガラス張りの床の上で震えている。
「落ちちゃいそう」
ふと、低めのトーンでそう言った彼女の横顔を見ると、先程の輝く笑顔とは裏腹、どこか諦めたような寂しそうな表情をしていた。それを見た僕は、慌てて彼女に話しかける。
「落ちないよ、ほら」
何かが違うとは思ったけれど、僕はその上でジャンプをしてみせた。顔を上げポカンとそれを見た彼女はただ、
「うん」
と頷いたままに俯く。思っていたものと違う反応を返された僕は、ますます焦った。
「どうしたの?」
彼女の顔を覗き込んでみる。無駄にライトアップされたビルたちが視界の端にちらちらと映って鬱陶しい。
「……ってた」
「ん?」
彼女の声は近くを飛ぶヘリの音にかき消され、僕は反射的に聞き返す。
すると彼女は勢いよく僕を見上げて、
「ここまでしたら、さすがに言ってくれると思ってた!」
と言い捨てるやいなや、ヒールの高い靴を履いた足とは思えない速さで、エレベーターの方へ走って行ってしまった。
「……え?」
こんがらがった思考回路で、彼女の言葉を何度も反芻する。そして一つのことに思い当たった。
今日のデート、一連の流れを決めたのは彼女だった。何回か前から「これからは私が決める」と宣言されて、不思議に思ったのを覚えている。
そうか、あれはもしかして、気付いてて。
平気なふりをしていた自分の演技を思い返して恥ずかしさにうずくまりそうになりながらも、僕はエレベーターの方へ走り出した。

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